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緊迫するウクライナ情勢をめぐり、政府が米国の要請に応じ、ロシアから天然ガスの供給を受けている欧州諸国に向け、日本が確保していた液化天然ガス(LNG)を一部融通することを決めた。
日本でも寒さが厳しくなり、昨年に続いてLNG需給の逼迫(ひっぱく)が懸念されている。欧州向けにLNGを供給しても国内需要を賄えるようにするため、官民でしっかりと需給を管理する必要がある。
ウクライナ国境に兵力を集めるロシアが、ウクライナに侵攻する懸念が高まっている。米国はロシアに対し、ウクライナに侵攻すれば断固たる制裁措置を講じると警告している。フランスなどの外交努力も本格化しているが、危機の行方は予断を許さない。
国内需給管理に万全を
対露制裁が発動されれば、ロシアは対抗措置として欧州への天然ガス供給を停止する恐れがある。すでに欧州への供給量は減っている。そこで、バイデン米大統領は日本などに対し、欧州へのLNG融通を求めてきた。
萩生田光一経済産業相はLNGの一部を融通する方針を表明した。3月に日本企業を通じて数十万トン規模を供給する計画だ。日本もLNG需給の逼迫懸念を抱え、大量の融通は難しいが、自由と民主主義の価値観を共有する欧州の苦境をできるだけ助けたい。
一方で、欧州のエネルギー安全保障への姿勢には疑問が残る。世界の脱炭素の主導を目指す欧州はドイツを中心に、再生可能エネルギーの拡大を急いでいる。
ドイツは風力などの再生エネを電源全体の半分近くに拡大させた。自然に頼る再生エネは、天候によって発電量が大きく上下する。そのため調整電源としてガス火力発電が必要で、燃料の多くはロシア産天然ガスだ。
欧州が消費する天然ガスはロシア産が3~4割を占め、ドイツに限れば6割に達する。
こうした中で、ドイツはロシアとの間で新たなガスパイプラインを建設し、ロシア産天然ガスの調達をさらに増やす計画を進めていることも疑問である。
ロシアからの供給に依存する危うい構図で、エネルギーの安定的な調達が揺らぐばかりだ。
ドイツは6基あった原発のうち、昨年末に3基の稼働を停止し、年内に残る3基も停止する予定だ。再生エネ拡大と脱原発を掲げるのは結構だが、天然ガスのロシア依存を強めて自国のエネルギー安全保障を損ない、同盟国や友好国から支援を仰ぐようでは本末転倒である。
欧州連合(EU)の欧州委員会は、脱炭素につながる持続的なエネルギーとして原発と天然ガスを認定した。ドイツはこれに反発し、提訴も辞さない構えだ。自国の脱原発政策と逆行するためだが、そもそもエネルギーの安定供給は政府の責任である。欧州全体のエネルギー供給を揺るがすような無責任な行為は許されない。
ドイツの姿勢は残念だ
米紙はこうしたドイツについて「自滅的なエネルギー敗戦」と酷評した。米議会では「ドイツは本当に信頼できる同盟国なのか」との疑念が高まっているのも当然だ。ドイツは急進的なエネルギー政策を見直すべきではないか。
暮らしと産業を守る電力・ガスの安定供給を抜きに、脱炭素などあり得ない。資源小国の日本も、世界の厳しい現実を直視し、電源構成の多様化に努めることが肝要だ。それが自国だけでなく、西側全体のエネルギー安全保障を強固にすることにもつながる。
ドイツの陥ったエネルギー危機は対岸の火事ではない。日本では原発の再稼働が進まない中でLNG火力が主力電源として使われている。LNG輸入の8%はロシア産が占める。
ロシアが政治的主張を押し通すためにLNG供給を左右する国である以上、輸入先の多様化を引き続き進めたい。
脱炭素に向けて再生エネ拡大を図れば、その分だけ天候による発電量の変動が大きくなり、それを調整するための電源が求められる。LNGや石炭など一定の火力発電が欠かせない。
日本は欧州と異なり、送電網やパイプラインが隣国と縦横に結ばれているわけではない。安全性を確認した原発を含め、多様な電源を確保していくことがエネルギー安全保障の確立につながることを改めて認識する必要がある。
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2022年2月13日付産経新聞【主張】を転載しています